一刻も早く病院に行きなさいと忠告された。
プリシアターの小林さんに電話してアマゾンの受注を停止する方法を教えてもらう。
朝っぱらからすみません。
受注メールが怖いんです。
「これから介抱に行こうか?」と言ってくれたが
なんとか自力で対処できそうと詫びを入れる。情けない。
葬式は頼むわ。
スーパー源氏と小林さんに春野菜セットを送ってもらったのにまだ金を振り込んでおらんのだ。
「カテコ」のママから注文が来たらしい。筍はもう終わったそうです。
お礼は必ず送ります。
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりが坐った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘は坐った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
又立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は坐った。
二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
可哀想に。
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をギュッと噛んで
身体をこわばらせて−−−。
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持ちで
美しい夕焼けも見ないで。
吉野 弘
詩集<幻・方法>所収
「現代詩文庫」思潮社
オレはけっしてやさしい気持の持ち主ではありませんが
このつらさはなんとなくわかる。
飲みに行けばまたコケるだろう。
どうやって立ち直ろう?